黄金の門をくぐって

メイベル・コリンズ著『黄金の門をくぐって』の日本語訳を掲載します。

 怠惰は実のところ、人々の不幸の種である。アイルランドの粗野な者や世界に広く移り住んだジプシーが、とてつもなく怠惰なために堕落と貧困の中に暮らすのと同じように、粋人も同じ理由で感覚的な喜びの中に甘んじて暮らしている。上等なワインを飲み、おいしい食事を味わい、美しい女性や周囲の見事なものに、きらめくような楽しさを見聞きする――これらのことは、訓練された人にとっては教養のない人の無骨な満足や粗野な娯楽以上に良いものでもなく、最終的な目的地に達する喜びからすれば、より十分なものでもない。究極の地点というものはあり得ない。あらゆる生活の様式はどれも、一つの広大なグラデーションの連続になっているからだ。そして到達した文化の地点に立ち止まっていることに決めた人や、それ以上先へは進めないことを率直に認める人は、単に自分の怠惰の言い訳を、自由意思で表明しているのだ。もちろんジプシーは堕落と貧困の境遇に置かれていると明言できるかもしれず、実際そうであるが、ジプシーほど偉大な、最も教養ある人たちはいない。だが無知である間はそうなのだ。薄暗い心に光が差した瞬間、人のまるごと全体がそれへ向く。だからそれはより高い段階のことである。心に光が差し込むこと、光を入らせることの困難さだけがなおさら大きいことなのだ。アイルランドの粗野な者がウイスキーが大好きで飲んでいる間、倫理的・宗教的な大いなる諸法則を気にもかけない。その法則は人類を統治するとされており、人々に節制を守って生きるよう仕向ける。洗練されたグルメの人は微妙な味や最高の味わいしか気にかけない。彼は生粋の粗野な者と同じように、このような満足を超えた何かがあるという真実に気づかない。粗野な者のように彼は魂に重くのしかかる幻影に惑わされる。そして一度手に入れた、彼を楽しませる感覚的な喜びが、終わることのない繰り返しによってこの上ない満足をくれるものと思って、ついに狂気に達するまで繰り返す。大好きなワインの香りが、魂の中に入り込み毒する。彼には何の思考も残らず感覚的な願望だけが残る。彼は酒に狂って死ぬ人と同じ絶望的な状態にある。その大酒飲みが、狂気から何か良いものを得ただろうか? いいや、何もない。苦痛がついに喜びを完全に飲み込んでしまい、苦悩を終わらせるために死が介入して来る。自然の法則が重力の法則と同じくらい変えられぬものであることに無知でいつづけることへの最終的な報いにその人は苦しむ――自然の法則とは、人にじっとしていることを許さない法則である。カップ一杯の楽しみは二度は味わえない。二度目には、ほんの少しの毒か一滴のエリキサ(霊薬)か、どちらか一方がきっと入っている。

 同じ主張が知的な楽しみについてもあてはまる。同じ法則が働くのである。次のような人々がいる。同輩を超越し、抜きん出ている、その時代の精華とも言うべき知識人で、ついに破滅的な思考の回し車に食い込まれ、生来の魂の怠惰な性質に負けてしまい、自分自身を繰り返しなぐさめることでだまし始める。その後で、不毛と活力の欠如がやって来る。――中程度の生活が消え去ったちょうどその時、偉大な人々がよく入り込む、みじめで失望する状態である。若さの火、若い知識人の活力は、内的な無気力に打ち勝ち、人に思考の高みへと登らせ、精神の肺を山々の自由な空気で満たす。しかしその後、とうとう身体的な反動が始まる。脳の肉体的な構造は勢いの強さを失い、努力の緊張が緩み始める。肉体の若さは終わっているからである。今やその人は人生の階段の上で、その地点にまで上って来る人たちを待ちながら永遠に立っている仲間の偉大な気質に悩まされる。彼は耳に毒の滴がしたたり落ち、その瞬間から全意識が愚鈍さを帯びる。そして人生がさまざまな可能性を失ってしまったのではないかと恐れる。なじみ深い経験の壇上に急ぎ戻り、そこでよく知っている激情や感情の心の琴線に触れる慰めを見出す。そしてその居心地の良さにいつまでもとどまり、未知の試みを怖れ、引き続き感情の琴線に触れる、最も容易に見返りが得られることに満足するのである。このことは、彼らの中で今もなお生命が燃えていると断言できることを意味している。だがついに、グルメや大酒飲みと同じなれの果てとなる。魔法のような魅惑の力は日ごとに減り、それは失速する機械のようである。その人はより過敏に気持ちを表し、ものに固執し、カップの中に残った致命的な最後の毒を飲むことで、古い興奮をよみがえらせようと努める。それから彼は放心状態となる。あたかも狂気が飲んだくれの肉体にやって来るように、狂気が彼の魂に訪れる。人生にはもう何の意味もなくなり、やみくもに気の狂った精神障害どん底へと急ぐ。この大いに愚かなことをする劣った人は、おなじみの思考に愚鈍に執着することで、そして自分で最後のゴールだと言い張る回し車にしがみつき続けることで、他者の霊を疲れさせる。彼を取り巻く暗雲は、死そのものと変わらないくらい破滅的である。でも彼自身の偉大さを思い出すために、かつてのようにひざまずいて悲嘆を追い払い、ずっと昔に聞いた言葉を思い出すべきである。

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